遮光器土偶
宮城県大崎市田尻蕪栗字恵比須田出土
縄文時代(晩期)・前1000年~前400年
宮城県大崎市で出土した《遮光器土偶》は縄文時代を代表する土偶の一つ。ほとんど目だけで覆い尽くされた顔はこれまでにさまざまな説を生み出した。古代に飛来した宇宙人を模したのだ、とか、ゴーグルを付けているのだ、など。とくに「ゴーグル」説はロンドンの大英博物館で極北民族が雪の照り返しから目を守るためにつける雪中遮光器を見つけた考古学・人類学者、坪井正五郎が唱えた著名な説。《遮光器土偶》の名もそこから来ている。
が、近年の研究では目を強調したかったのでは、という説が有力だ。考えてみれば現代女性もアイラインやカラコンで“目力”アップに必死になっている。漫画やアニメに登場する美少女の目も現実にはあり得ない大きさだ。この土偶は3000年ほど前のものと推定されるが、当時も今も美の理想はあまり変わっていないのかもしれない。
この像は出土したときから左足が欠けていた。この像に限らず、土偶はどこかが欠けた、あるいは壊れた状態で見つかるものが多い。この《遮光器土偶》のように大部分が完全な形で残っているのは奇跡に近いことなのだ。なぜ壊れているのかについて「何かの儀式で壊して埋めた」という説と、「土中に数千年埋まっている間に壊れてしまった」という説があるけれど、いまだ決着はついていない。縄文にはまだまだ謎が多いのだ。
今では全身茶色くなっているこの土偶だが、頭の冠状の飾り(結った髪を表現したと思われる)や胸元の飾りなどの凹んだところに赤い色が残っていることから、もともとは全身が真っ赤だったと考えられている。赤は燃える火の色であり、血液の色でもある。この像に燃えたぎるような力をこめたい、古代の人々はそう考えたのかもしれない。